これ、笑い話じゃないんです。本当にあった話です。
僕が経験した中で、「会社ってそういうものか」と初めて腑に落ちた出来事がありました。効率化とか利益追求とか、そういう言葉を毎日聞きながら働いているのに、会社全体で見たら全然そうじゃないじゃないか、と。
今日は、証券会社のシステム部門に営業したとき話を書きます。登場する担当のことは、僕は今でも尊敬しています。頑張っている人なんです。ただ、そんな人でも「こうするしかない」という状況に追い込まれてしまう構造が、この話の本質だと思っています。
ファイルサーバーの保証が切れる、それだけの話だったはずが
発端はシンプルでした。社内で使っているファイルサーバーの保証期限が、あと1年で切れる。だから来年度の予算申請で、新しい機器に入れ替える費用を通さないといけない、という話です。
入れ替えるだけなら200万円でできます。機器の費用と設定作業込みで、大体そのくらいの見積もりが出ていました。別に特別なことは何もない。老朽化した機器を新しくする、それだけです。
ところが先輩から相談を受けたとき、「200万円じゃ通らないかもしれない」という話になったんです。
「付加価値のある提案にしないと予算が取れない」
役員や経理部門から言われた言葉がそれでした。単純な機器の入れ替えだと、承認が下りない可能性がある。社内に大きな付加価値をもたらす提案にしないといけない、と。
最初に聞いたとき、正直「そういうものか」と思いました。まあ確かに、ただ壊れる前に替えます、というだけじゃ弱いかな、という気持ちもあったんです。
でも次に先輩が出してきた提案の内容を見て、少し違和感を覚えました。
「社内情報活用システム」を一緒に導入する案が浮上した
ファイルサーバーを入れ替えるついでに、社内の情報を横断的に活用できる新しいシステムも導入する、という方向性になったんです。
ファイルサーバーに保管されている文書や資料を検索・活用しやすくする、いわゆる社内ナレッジ系のシステムです。確かに、ファイルサーバーという「社内情報の置き場所」と絡めれば、提案としての筋は通る。
費用は別途500万円くらい。ファイルサーバーの200万円と合わせると、合計700万円の提案になります。
さらに、そのシステムの保守料が毎年100万円かかります。導入して終わりではなく、ずっとコストが発生し続ける。
誰もそのシステムを求めていなかった
ここが、僕の中でずっと引っかかっているところです。
その社内情報活用システム、社内のどの部門からも「使いたい」という声が上がっていたわけではありませんでした。経理もシステム部門も、特段困っていない。ファイルサーバーの管理を担当しているシステム部門自身も、正直なところ使う予定はない、という状況でした。
つまり整理するとこういうことです。
- 本当に必要なのはファイルサーバーの入れ替え(200万円)
- でも200万円では予算が通らない可能性がある
- だから誰も必要としていない500万円のシステムをセットにする
- 合計700万円の提案として出す
- さらに毎年100万円の保守コストが永続的に発生する
笑い話みたいでしょう。でも笑えないんです。これが実際に起きたことで、先輩はこれを真剣に、しかも相当な時間と労力をかけて資料にまとめていました。
先輩を責める気には、全然なれなかった
僕がこの話を聞いたとき、最初に感じたのは「もったいないな」でした。先輩に対してではなく、この状況に対して。
先輩は仕事のできる人です。システムのことも詳しいし、提案書を作る力もある。でもその能力が、誰も使わないシステムの導入提案を通すために使われている。
先輩が悪いわけじゃないんです。「付加価値のある提案にしないと通らない」というルールの中で、できる限りの工夫をした結果がこれなんです。その構造に問題があるとしか言いようがない。
「社内への貢献」という大義名分
経営層や役員が「付加価値のある提案にしろ」と言う気持ちはわかります。限られた予算を有効に使いたい、それ自体は正しい。
ただ、その結果として何が起きたかというと、200万円で済む話が700万円になり、さらに毎年100万円のコストが生まれた。「社内への貢献」「会社の成長のために」という言葉が、かえって無駄なコストを生む方向に働いてしまっている。
この構造、どこかおかしくないですか。
僕がこの話から考えてしまったこと
業務効率化を頑張っています、コスト削減に取り組んでいます、と現場レベルでは日々やっている。でも会社全体で見ると、こういう意思決定が普通に通っていく。
現場で1人あたり月に何時間残業を減らしました、という積み重ねが、こういう意思決定1回で吹き飛ぶ規模の話です。システム部門の誰かが毎年100万円分の「何か」を生み出し続けないと、それだけでペイしない計算になってしまう。
もちろん、社内情報活用のシステムが将来的に本当に役立つ可能性はあります。それは否定しません。ただ、今回の提案の出発点は「200万円の予算を通すため」であって、「このシステムが本当に必要だから」ではなかった。そこが問題の核心だと思っています。
予算の通し方が、コストの構造を歪める
「大きな付加価値がないと予算が通らない」というルールが存在することで、本来シンプルに済む話が複雑になっていく。これはこの証券会社に限った話ではないと思います。
僕が働いてきた中で、似たような構造を何度か見てきました。本当に必要なものを通すために、必要ではないものをセットにしないといけない場面。それによって、提案を作る人の時間と能力が、本来の目的とは別のところに使われていく。
これ、組織の中で生産性を上げようとしている人にとって、かなり根が深い問題だと思うんです。
効率化の努力が報われない理由の一つがここにある
現場で頑張っている人が報われにくいのは、個人の能力や努力の問題だけじゃないと僕は思っています。こういう構造的な問題が、組織の中にいくつも積み重なっているからじゃないかと。
先輩の話に戻ります。先輩はあの提案書を通すために、おそらく数十時間は使ったと思います。誰も使う予定のないシステムの導入効果を調べて、社内への貢献を言語化して、役員に納得してもらえる資料を作る。その時間と能力、別のことに使えたら、と正直思いました。
でも先輩にはその「別のこと」を選ぶ余地がなかった。ファイルサーバーの保証が切れる前に入れ替えないといけない、その事実は変わらないから。
これが「普通」として回っているという現実
僕が一番引っかかったのは、この提案が「ありえない話」として扱われていなかったことです。関わった人たちは全員、普通のこととして進めていました。おかしいと声を上げる人もいなかった。
それだけ、こういう意思決定の仕方が「当たり前」として定着しているということだと思います。
200万円の話が700万円になる。誰もそのシステムを必要としていないのに、毎年100万円のコストが生まれ続ける。それを「社内への貢献」という言葉でくくって進めていく。
これが笑い話に聞こえるなら、あなたの職場はまだ健全なのかもしれません。でも「あー、うちもそういうことあるな」と思ったなら、それはたぶん偶然じゃないと思います。
効率化に取り組んでいるのに状況が変わらない、努力が報われている気がしない、そう感じている人の背景には、こういう構造的な問題が絡んでいることが多いと、僕はこの経験から考えるようになりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
