
「必要なリソース」の欄で、手が止まった。
工数を書けばいいのはわかっている。でも、どの粒度で書くか。フェーズごとに分けるべきか。作業内容はどこまで具体的に書くか。担当者の名前は入れるべきか。
こういった問いに答えてくれる資料が、どこにもなかった。
僕がコンサルタントとして工場設備メンテナンス会社の改善プロジェクトに携わったとき、提案書のリソース欄の設計で承認の速さが大きく変わる場面を経験した。
担当者が「これで合っていますかね」と持ってきたリソース欄には、合計時間だけが記載されていた。部門長はそれを一瞥して「本業がどれだけ影響を受けるかわからない」と言い、承認を保留にした。
フェーズごとに分け、週あたりの稼働時間を具体化して出し直したら、その日のうちに承認が下りた。
リソース欄は、工数の記録票ではなく、2者への合意取得のための提示物だ。
この「2者」とは、部門長と実務担当者を指す。
- 部門長向け:フェーズごとの週あたり稼働時間を示し、本業インパクトを可視化して合意を得る
- 担当者向け:作業内容を具体化して示し、自分がいつ何をするかを伝えて協力を引き出す
この2層の目的を意識してリソース欄を設計すると、1つのテーブルで2者への合意を同時に取ることができる。ここを起点にフォーマットの全設計が決まる。
この目的を意識すると、何を、どの粒度で、なぜフェーズ別に書くかが自然に決まる。
この記事では、工場設備メンテナンス部門の実案件で使ったテンプレートをそのまま公開する。今日中に自分の案件に当てはめて書き終えられるはずだ。
業務改善提案書全体の構成については、業務改善提案書の書き方【構成と通し方を完全解説】もあわせて確認してほしい。
- リソース欄の目的は「2者への合意取得」——部門長(本業への影響)と実務担当者(自分の関わり方)にそれぞれ何を伝えるかが設計の軸になる
- フェーズ別×部門別の構造が決裁ハードルを下げ、担当者の協力を引き出す——工場設備メンテナンス部門の3フェーズ実例(コピペ可能)を提供する
- バッファは多めに取るのが正しい——想定外が発生したとき「もっとかかる」と言い出せない状況を事前に防ぐのがリソース欄の役割の一つ
業務改善提案書「必要なリソース」テンプレート(コピペ用)

このテンプレートはフェーズ×作業内容×週時間の5列で構成する。部門長と担当者の2者が一目で稼働量を判断できる、必要最小限の構成だからだ。
列の内訳は次の通りだ。
- 部門名:どの部署が稼働するか
- フェーズ:プロジェクトの段階
- 期間:そのフェーズの実施時期
- 作業内容:具体的に何をやるか
- 週あたり目安時間:1週間あたりの稼働時間
担当者の個人名はここには書かない。メンバー数だけ記載し、個別の担当割り当ては「体制」の項目に委ねる。その理由は次の章で説明する。
まず、穴埋め形式のテンプレートをそのまま使ってほしい。
テンプレート(穴埋め形式)
| 部門名 | フェーズ | 期間 | 作業内容 | 週あたり目安時間 |
|---|---|---|---|---|
| 【部門名】 | フェーズ1 | 【開始月〜終了月】 | 定例会 | 週〇時間 |
| 〃 | フェーズ1 | 〃 | 【作業内容】 | 週〇時間 |
| 〃 | フェーズ2 | 【開始月〜終了月】 | 定例会 | 週〇時間 |
| 〃 | フェーズ2 | 〃 | 【作業内容】 | 週〇時間 |
| 〃 | フェーズ3 | 【開始月〜終了月】 | 定例会 | 週〇時間 |
| 〃 | フェーズ3 | 〃 | 【作業内容】 | 週〇時間 |
※ 担当者の詳細・個人名は別項目「体制」に記載する。この表にはメンバー数(例:10名)のみ記入する。
次に、実際のプロジェクトで使った記入済みサンプルを示す。自分の案件の規模や期間は違っても、構造は同じだ。
記入済みサンプル:工場設備メンテナンス部門の実例
対象部署:メンテナンス部 フィールドエンジニア課(ワーキンググループメンバー 10名)
| フェーズ | 期間 | 作業内容 | 週あたり目安時間 |
|---|---|---|---|
| フェーズ1 | 6月〜7月中旬 | 定例会 | 週2時間 |
| フェーズ1 | 〃 | 新システム設計 | 週3時間 |
| フェーズ2 | 7月中旬〜8月 | 定例会 | 週2時間 |
| フェーズ2 | 〃 | 社内情報収集・整理 | 週5時間 |
| フェーズ2 | 〃 | 新システムへのデータ投入 | 週2時間 |
| フェーズ3 | 8月〜9月 | 定例会 | 週2時間 |
| フェーズ3 | 〃 | 新業務フローマニュアル作成 | 週5時間 |
| フェーズ3 | 〃 | 社内教育・問い合わせ対応 | 週3時間 |
このフォーマットを見ると、自分の案件でも同じ構造で書けるという感覚がつかめるはずだ。
業務改善提案書「必要なリソース」の書き方——記入ガイドの判断ポイント3つ

記入判断のポイントは3つだ。「フェーズ別に分ける」「バッファを1〜2割多く取る」「個人名は書かない」——この3原則を守れば、どの案件でも迷いなく記入できる。 それぞれ、部門長の承認判断と担当者の協力態勢に直結する理由がある。
判断ポイント1:なぜフェーズ別・部門別に書くのか
部門長が承認時に最も確認したいのは、本業インパクトだ。自分の部署がどのフェーズで週何時間とられるかが読めないと、「本業が回るかどうか」を判断できない。
上記のサンプルは、実際のプロジェクトで各フェーズの作業時間を計測し、部門長と合意した実測値だ。フェーズ1は定例会と設計で週5時間。フェーズ2は定例会・情報収集・データ投入で週9時間。フェーズ3は定例会・マニュアル作成・教育対応で週10時間になる。同プロジェクトでは、このフォーマットで提示した当日に部門長の承認が下りた。
フェーズごとに分けると、「最も忙しいフェーズ2でも週9時間で済む」という判断ができる。
フェーズを一括りにして合計時間だけ出すと、部門長は「最大値」で判断せざるを得なくなる。結果、「それだけ本業に影響が出るなら厳しい」と却下されやすくなる。
フェーズ別に示すことで、スモールスタートの安心感も生まれる。「フェーズ1だけ承認してもらい、実績を見てからフェーズ2以降を判断する」という提案もしやすくなる。決裁ハードルを段階的に下げられるのが、フェーズ別記載の実質的な効果だ。
判断ポイント2:バッファはどのくらい多めに書くか
工数見積もりで最も多い失敗は、担当者の体感で時間を書くことだ。
実際にコンサルタントとして製造業の現場でヒアリングし、担当者立ち会いのもとで作業時間を計測したところ、「体感で3時間くらい」と言っていた作業が5.5時間かかっていた例がある。担当者が嘘をついているわけではない。人間の体感と実測値にはズレがある。これは1件の例外ではなく、複数の製造業案件でヒアリング値と実測値を比較してきた結果、体感より実測が長くなるケースが大半だった。
リソース欄に体感値を書いて、後から「やっぱりもっとかかります」と言い出すと、部門長・担当者双方の信頼を失う。承認後に追加の稼働を認めてもらうのは、最初に正直に書くより何倍も難しい。
実際にかかりそうな時間を、近い業務の実績や計測から算出した上で、1〜2割多めに記載する。想定外が発生しても「想定の範囲内」として吸収できる余白が必要だ。ただし極端に多くすると「本業が回らない」として却下されるため、バランスは意識する。
判断ポイント3:担当者名・個人名は書かなくていい
リソース欄の目的は「部門ごとの稼働量の合意を取ること」だ。誰が具体的に担当するかは「体制」の項目に委ねる。
個人名をここに書くと、部門長から「その人は別の案件もあるが大丈夫か」という個別の議論が始まる。承認の焦点がズレ、話し合いが長くなる。メンバー数(例:10名)と部署名だけ記載し、担当割り当ての詳細は体制欄で扱う。
なお、予算の記載については業務改善提案書「必要な予算」の書き方も参照すると、リソースと予算をセットで整合させやすい。リソース欄で示した稼働時間を人件費として換算し、予算欄に反映するという流れが自然だ。
リソース欄でやりがちな失敗と確認ポイント

リソース欄が差し戻される原因は、ほぼ3パターンに絞られる。合計時間のみ記載・作業内容が抽象的・関係部署の漏れ——この3つを事前につぶせば、差し戻しはほぼなくなる。
失敗1:全フェーズを合算して「合計〇時間」で書く
「プロジェクト全体を通じて合計100時間必要です」という書き方では、部門長は「毎週どのくらいかかるのか」が読めない。
合計時間の表示は不要だ。フェーズごとの週あたり時間だけを書く。それだけで部門長が本業との両立を判断できる情報量になる。
失敗2:作業内容が抽象的(「打ち合わせ」「作業」)
「打ち合わせ:週3時間」と書かれても、担当者は「どんな打ち合わせか」がわからない。
作業内容は「動詞+目的語」の形で書く。「定例会」「新システム設計」「社内情報収集・整理」「新業務フローマニュアル作成」のように、何をやるかが一言でわかる粒度が正解だ。
抽象的な記述は担当者の不安を生み、上司からの「詳細を説明してくれ」という追加質問を招く。
失敗3:担当部署が1つしか書かれていない
複数部署が関わるプロジェクトなのに1部署しか記載がないと、後から「あの部署は何時間使うのか」という疑問が出て差し戻される。
関係する部署を全てリストアップし、部署ごとにフェーズ別の稼働時間を記載する。
提出前の確認チェックリスト
- [ ] フェーズごとに分けて週あたり時間を記載しているか
- [ ] 作業内容が具体的な動詞+目的語になっているか
- [ ] 関係する部署が全て網羅されているか
- [ ] 担当者の個人名は「体制」に委ねているか
- [ ] バッファを加味した時間になっているか
まとめ——「必要なリソース」は2者への合意ツールとして使う
テンプレートを使えば、形式は整う。
でも最も重要なのは、「誰に何を合意させるためにこの欄を書いているか」という目的の明確さだ。
部門長向けには本業インパクトの可視化。担当者向けには自分の具体的な関わり方の提示。この2つの目的を意識してテンプレートを埋めたとき、リソース欄は承認を通す道具になる。
フェーズ別・部門別に書く構造も、バッファを多めに取る判断も、個人名を書かない原則も——すべてこの目的から逆算すれば理由がわかる。
業務改善提案書の全体構成・各項目の書き方については、業務改善提案書の書き方【構成と通し方を完全解説】で詳しく解説している。リソース欄以外の項目も、同じように「誰に何を合意させるか」という目的から設計することが、承認への近道だ。
