
「目的の欄に何を書けばいいかわからないんです」
工場設備のメンテナンス会社で、部門の課長から言われた言葉だ。
部長から「役員から指示があったから業務改善をしてくれ」と言われた。
それだけが頼りで、課長とリーダーは提案書を書き始めた。
とりあえず「省力化のためにAIシステムを導入する」と書いた。
部長に見せると、「なんか違う」と差し戻された。
何が違うのかは、教えてもらえなかった。
書き直す。また差し戻される。
締め切りだけが近づいてくる。
その課長の顔には、焦りと混乱と、少しの怒りが浮かんでいた。
「自分たちは一体何を書けばいいのか」という問いに、誰も答えてくれなかったのだ。
業務改善提案書の書き方を調べると、テンプレートや項目の説明は山ほど出てくる。
でも「目的の欄に何を書くべきか」を、決裁者の視点から説明しているものは少ない。
業務改善提案書の全体像については 業務改善提案書の書き方【構成と通し方を完全解説】 で解説しているので参照してほしい。
この記事では、「目的」の項目に絞って書き方を解説する。
中期経営計画から逆算する3ステップを、実例を使って具体的に説明する。
- 業務改善提案書の「目的」は、会社の中期経営計画から逆算して書く。それが決裁者が投資を承認する唯一の根拠になるから。
- 「AIを導入する」「人を増やす」は目的ではなく手段。「目的」の欄に書くべきは「何のために・何が起きていて・このままどうなるか」の3点セット。
- 中期経営計画と連動した「目的」を書くと、部長が反対意見を言えなくなり、プロジェクトの手戻りが防げる。
業務改善提案書の「目的」が通らない本当の理由

業務改善提案書は、担当者が自分の業務改善を報告する書類ではない。
決裁者が投資判断を行うための書類だ。
役員や部長は、この提案書を読みながら一つのことを考えている。
「この改善に、会社のお金と時間を投じる価値があるか」。
それだけだ。
では、その判断基準は何か。
経営層が重視するのは「戦略的整合性」、つまり「会社の中期経営計画の達成に寄与するか」だ。
だから、目的の欄に中期経営計画との接続が書かれていない提案書は、現場の課題をどれだけ詳しく書いても「投資する理由」が見えない書類になる。
どれだけ丁寧に現状を描写しても、決裁者には「それで、なぜ今やるのか」がわからない。
逆に言えば、中期経営計画に沿った目的が書かれていれば、部長は「この改善は経営方針に沿っている」と判断する。
反対意見が出たとしても、「同じ方針の範囲内」のアドバイスに収まる。
手戻りが大幅に減る。
工場設備メンテナンス会社の実例で言えば、課長たちが書いた「省力化のためにAIを入れる」という目的は、会社の中期経営計画のどこにも接続していなかった。
決裁者である役員から見ると「省力化したいのはわかるが、なぜ今それをやるべきなのか」が、まったく見えない状態だった。
工場メンテナンス会社の実例で学ぶ「目的」の書き方3ステップ

ステップ1|中期経営計画から「この業務改善に関係する言葉」を探す
まず、自社の中期経営計画や経営方針書を手元に用意する。
多くの会社に中期経営計画はある。
ただ、担当者レベルでは「自分の仕事に関係ない文書」として引き出しに眠っていることが多い。
課長とリーダーに「会社の中期経営計画を持ってきてください」と伝えたとき、二人は「そんなものが関係あるんですか?」という顔をした。
ところが、一緒に読み合わせをしてみると、話が変わった。
その会社の中期経営計画には、こんなことが書かれていた。
- 顧客生涯価値(LTV)の最大化を図る
- 工場設備のまるごとメンテナンスで10年以上安定した利益を作る
- まるごとメンテナンスで信頼を得て、新規設備・更新設備を自社で提供する
「まるごとメンテナンス」というキーワードが、課長たちの業務改善テーマとまさに直結していた。
中期経営計画の中から「今回の業務改善が寄与できる目標・方針・キーワード」を3つ書き出すところから始める。
それが「目的」を組み立てる土台になる。
ステップ2|「業務改善が必要になった経緯」を中期経営計画の文脈で説明する
キーワードが見つかったら、次に「なぜ今この業務改善が必要なのか」を中期経営計画の文脈でつなぎ直す。
以下の4段階で組み立てる。
- 中期経営計画として○○を目指している(経営方針の引用)
- そのために○○という業務変化が起きている(方針実行の結果として生じた実態)
- その結果、○○という課題が発生している(現場への影響)
- このままでは○○という被害が広がる(放置した場合の機会損失)
この会社の場合、4段階はこうなる。
- 顧客生涯価値(LTV)の最大化のために、まるごとメンテナンスを推進している
- 以前は製品ごとの専任担当制だったが、現在は顧客ごとに全製品を一人でメンテナンスする体制に移行した
- 担当一人あたりが対応する製品数が膨大になり、製品知識に加えて顧客ごとの運用方法の習得も必要になっている。メンテナンスサポート部門・開発部門・営業部門との連携も増え、メンテナンスの長期化・品質低下が増えている。さらに開発部門・営業部門の間接コスト増大にもつながっている
- このままでは、高品質省力化のまるごとメンテナンスの品質維持が困難になる
この4段階が「目的」の欄の核心だ。
ステップ3|「目的」の文章を組み立てる
ステップ2で整理した4点を、「目的」の欄に文章として書く。
書き方のポイントは4つ。
- 冒頭に中期経営計画への言及を入れる(「LTV最大化を目的としたまるごとメンテナンスの推進にともない…」)
- 業務変化の経緯を1〜2行で書く(「顧客ごとの全製品担当制に移行したことで…」)
- 現状の課題と放置した場合の影響を、具体的な部門名とともに書く(「メンテナンスの長期化・品質低下・開発営業の間接コスト増大」)
- 最後に「○○の環境を構築する」と目的を明示する
NGパターンとOKパターンの比較
同じ会社の同じ業務改善でも、「目的」の書き方によって決裁者への伝わり方がまったく変わる。
NGパターン① 手段の目的化
「最新のAIシステムを導入することで省力化を図る」
「AIシステム導入」は手段であって目的ではない。
決裁者は「なぜAIでなければならないのか」「他の方法は検討したのか」という疑問を持つ。
中期経営計画のどこにも接続していないため、投資する理由が見えない。
NGパターン② コスト・利益意識の欠如
「人を増やすことでメンテナンス業務の増加に対応する」
人員増加はコスト増加だ。
経営層はコストを増やす提案には慎重になる。
しかもメンテナンス業務の増加が「なぜ起きているのか」「LTV最大化とどうつながるのか」が書かれていないため、「現場が人手不足だから増員を求めている」としか読めない。
NGパターン③ 緊急性の欠如
「業務改善を行い、メンテナンスの効率化を図る」
「業務改善をすればよくなる」ことは伝わる。
しかし「なぜ今やらなければならないのか」が伝わらない。
決裁者は「後でもいいな」と判断し、優先度が下がる。提案書が机の引き出しに眠る典型的なパターンだ。
OKパターン(正解例)
「顧客生涯価値(LTV)の最大化のため、まるごとメンテナンス体制を推進している。顧客ごとの全製品担当制への移行にともない、担当一人あたりの対応製品数と必要知識量が急増し、メンテナンスの長期化・品質低下が発生している。このままでは開発部門・営業部門の間接コスト増大も続き、まるごとメンテナンスの品質維持が困難になる。高品質省力化のまるごとメンテナンスを持続可能にする環境を構築することを目的とする。」
このOKパターンが通る理由は明確だ。
中期経営計画(LTV最大化・まるごとメンテナンス)が冒頭に明示されている。
業務変化の経緯(全製品担当制への移行)が書かれている。
現状の課題と放置した場合の機会損失(品質低下・コスト増大)が具体的に書かれている。
そして「目的」の達成像(高品質省力化の持続可能な環境の構築)が明確だ。
タイトルの書き方についても同様の原則が適用できる。
詳しくは 業務改善提案書のタイトルの書き方|中期経営計画と連動させる3ステップ を参照してほしい。
まとめ:今日すぐできる最初の一歩
業務改善提案書の「目的」は、中期経営計画から逆算することで決裁者に伝わる書き方になる。
今日できることは一つだ。
自社の中期経営計画を確認して、今回の業務改善テーマに関係するキーワードを3つ書き出す。
それだけで「目的」の草案が組み立てられる状態になる。
工場メンテナンス会社の課長とリーダーも、中期経営計画を確認して「まるごとメンテナンス」「LTV最大化」というキーワードを見つけてから、目的の書き方が大きく変わった。
最初の一歩は「中期経営計画を引き出しから出してくる」だけでよかった。
業務改善提案書の他の項目については 業務改善提案書の書き方【構成と通し方を完全解説】 を参照してほしい。
