オペレーターが紙を使う本当の理由を誰も知らなかった

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「システム化を進めたいけど、進められない」という相談

コールセンターを運営している会社の情報システム部門の方と話をしたことがあります。

最初に言われたのはこういうことでした。

「システム化を進めたいとは思っている。でも、オペレーターは紙の資料が使いやすくて、電話中にすぐ参照して回答している。パソコンの中のデジタル資料は扱うのが難しいらしい。システム化を進めれば応対品質が下がるんじゃないか、と思っていて、なかなか進められないでいる」

情報システム部門の方がこういう悩みを持っているというのは、少し不思議な感じがしました。システムや情報を扱うのが専門の部門なのに、「デジタルにすると品質が下がる」という結論になっている。

ただ、話を聞いていると、その方はオペレーターから聞いた話をそのまま受け取っていたようでした。オペレーターが「紙の方がいい」と言っている。だからデジタルにするのは良くない。そういう流れで止まっていたんです。

「なぜパソコンの資料は扱いにくいんですか?」

一つだけ聞いてみました。「なぜパソコンの資料は扱うのが難しいんですか?」

返ってきた答えがこうでした。

「紙の資料はデスクの上にあって、すぐ手に取ってめくれる。でもパソコンだと、フォルダがたくさんあって、その中にファイルがたくさんあって、文字もたくさんある。オペレーターはどのファイルを開けばいいか迷って、時間がかかってしまう」

なるほど、と思いました。

これって、紙かデジタルかの問題じゃないですよね。情報の量の問題です。紙の資料がすぐ使えるのは、デスクの上に置いてある資料の数が絞られているから。パソコンが使いにくいのは、フォルダもファイルも情報も多すぎて、目的のものにたどり着けないから。

そのことをそのまま伝えました。「紙とパソコンの違いは、紙かデジタルかではなく、情報の量が少ないか多いかの違いですよね?」

そのとき、情報システム部門の方が「あ……そうか」という顔をしたんです。

何年もコールセンターのシステムを担当してきた方が、初めてそのことに気づいたような顔でした。

問題はオペレーターだけじゃなかった

そのとき僕は、少しだけ気づいたことがありました。

パソコンに苦手意識があったのは、オペレーターだけではなかったのかもしれない。情報システム部門のこの方自身も、どこかでそういう感覚を持っていたのではないか、と。

だからオペレーターが「紙の方がいい」と言ったときに、「そうですよね」と受け取ってしまった。「なぜ使いにくいのか」を掘り下げずに、「デジタルにすると品質が下がる」という結論をそのまま受け入れてしまった。

情報システムの専門家でも、こういうことは起きるんだなと思いました。専門知識があることと、現場の問題を構造的に見ることは、別の話なんですよね。

「情報を絞ればいい」と分かったあとのこと

話はここから具体的になるはずでした。

情報を絞れば、オペレーターもパソコンで紙より早く応対できる可能性がある。そうなれば、あとはどの情報に絞るか、どの応対業務から始めるか、優先順位をつければいい。具体的なシステム化の計画が立てられるはずでした。

なので「どんな問い合わせが多いですか?」「その対応でよく使う資料はどれですか?」とヒアリングを進めました。

でも、具体的な回答が出てこないんです。

「オペレーターに聞かないと分からない」「資料はいろいろある」「問い合わせの種類もいろいろある」。そういう答えばかりで、話が前に進まない。

少し時間が経って、僕はなんとなく気づき始めました。この方が求めていたのは、システム化の計画ではなかったのかもしれない、と。

「システム化できない理由」が欲しかっただけかもしれない

役員からはシステム化を進めるよう指示が出ていた。でもこの方は動けていない、動きたくない。そのときに「オペレーターがシステム化すると応対品質が下がると言っている」という言葉は、とても都合がいい言い訳になります。

役員に「オペレーターが反対しているので難しい」と報告できる。自分が動かない理由を、現場のせいにできる。

もしかしたら、最初の相談はそのための材料集めだったのかもしれません。「専門家に相談したけど難しいと言われた」という実績を作りたかっただけかもしれない。

そう考えると、「紙とパソコンの違いは情報量の問題」と気づいた瞬間に微妙な空気になったのも、なんとなく理解できます。解決の糸口が見えてしまうと、動かない理由がなくなってしまうから。

これも個人を責める気にはなれないんです。

長年その組織にいて、動かなくても特に問題にならなかった。役員から指示が出ても、「現場が反対している」と言えば何年もやり過ごせた。そういう環境が、この方をこうさせてきたんだと思います。

今は問題ない。でも、そのうち限界が来る

この会社のシステム部門は、この方一人ではありません。ただ、話を聞いていると、部門全体がこういう考え方に染まっているような気がしました。

だとすると、オペレーターは今も紙をめくって仕事をしているはずです。

今は問題が表面化していない。なぜかというと、今のオペレーターは全員ベテランだからです。長年の経験で、どの資料のどこを見ればいいか体で分かっている。だからシステムがなくても回せている。

でも、新人が育っていない。

ベテランが紙をめくりながら瞬時に回答できる姿を見ても、新人には再現できない。どこに何が書いてあるかを覚えるのに何年もかかる。その間に離職してしまう、あるいは応対品質が下がる。そういうことが起きているんじゃないかと想像しました。

今のベテランオペレーターが定年や退職でいなくなったとき、一気に問題が噴き出す。でもそれは数年後の話です。

システム部門の方が異動や退職でいなくなった後に起きる問題かもしれない。だとすれば「自分には関係ない」と思っていても、無理はないのかもしれません。

でも、現場で毎日電話を取っているオペレーターや、そのコールセンターに電話をかけてくる顧客にとっては、ちゃんと降りかかってくる問題です。

時限爆弾を抱えている会社は、珍しくない

この話、特別な会社の特別な話ではないと思っています。

今は問題が起きていないから放置している。でも、ある日突然限界が来る。そういう時限爆弾を抱えたまま動いている組織は、おそらくたくさんあります。

問題が表面化するのは、今いる人たちが動いた後。だから今の人たちには緊急性がない。でも、その組織に残り続ける人にとっては、じわじわと首を絞めてくる。

このコールセンターの話を聞いたとき、僕は自分のことも考えました。

自分が今いる環境は、数年後に問題が噴き出す構造になっていないか。自分が真面目に働いて積み上げているものは、誰かが先送りにした問題の上に乗っかっていないか。その問題が表面化したとき、自分はどういう立場にいるのか。

「今は大丈夫」は、「ずっと大丈夫」ではないですよね。

努力や経験を積み上げる場所を、構造的な視点で選ぶことが大事だと、このコールセンターの話から改めて思いました。時限爆弾に巻き込まれないために、自分のいる場所の構造を見る習慣を持つこと。それが、長く安定して働くために必要なことの一つだと思っています。