1000万円の部長が問題を解決できなかった話

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ある日、上場企業の部長から相談を受けた

IT企業で営業をしていたころの話です。

上場しているバイクメーカーの技術統括部部長、仮に田中部長としておきます。この方から「業務改善のためのシステムを導入したい」という相談がありました。

最初の打ち合わせで聞いた話はこうです。市場、顧客、役員から短納期を求められている。基礎研究から生産、品質保証まで関わる部門が多岐にわたる中で、ベテラン技術者たちが自分の経験だけで判断して業務を進めている。マニュアルやチェックリストは一応あるものの、ベテランは確認しないのでないも同然になっている。

その結果、後工程で同じ問題が何度も発覚する。下流工程になるほど修正コストが膨らんで、毎年数千万円から多いときには数億円の手戻りコストが発生しているだろう、とのことでした。

役員からは5年前から「なんとかしろ」と言われていて、5カ年計画で取り組んできたが、3年目に突入しても明確な方針が出せていない。毎日のように役員から叱責を受けている状態だということも教えてくれました。

これは確かに深刻な問題ですよね。僕も最初は「大変な状況だな」と素直に思いました。

「SharePointが悪い、新しいシステムを貸してください」

田中部長が出した結論は、「今使っているSharePointサーバーが良くないから、新しいデータ共有システムに切り替えたい」というものでした。

少し引っかかりました。なので「今のSharePointの何が問題なんですか?」と聞いてみたんです。

返ってきた答えがこうでした。「当時は最新システムを入れたんですが、今は使いにくい。データが整理されていない。SharePoint以外の場所にもファイルが保存されている。新しいシステムを入れれば、みんな興味を持って使ってくれるはずです」

……なんというか、具体的な話が出てこないんです。

「データが整理されていない」のは、システムの問題ですか?「SharePoint以外の場所にもファイルがある」のは、システムが悪いからですか?「新しければ使ってくれるはず」というのは、根拠がありますか?

聞けば聞くほど、問題はシステムではなく業務の進め方や運用ルールにあるように見えました。新しいシステムを入れても、今のSharePointと同じ運命を辿るだけじゃないか、と僕は思いました。

そこで「各部門の役割と業務フロー、そこでの問題点、解決するために必要なドキュメントをまず整理しましょう」と提案してヒアリングを進めようとしたんですが、田中部長はピンと来ていない様子で。「それで、システムはいつ貸してもらえますか?」という雰囲気がずっとありました。

情報システム部部長との打ち合わせで起きたこと

しばらくして「システムのことは情報システム部の部長にも紹介しておきたい」ということで、三者での打ち合わせになりました。

情報システム部の部長、仮に鈴木部長としておきます。この方には最初にこう説明しました。「我々はこういうシステムを提供しています。ただ、システムを入れるだけで業務が改善されるわけではありません。業務フローと問題点を整理して、解決するための新しい業務フローを作り、それに合わせたシステムの使い方を一緒に考えることが大事だと思っています」

鈴木部長はうなずきながらこう言いました。「そうですよね。今まで現場の問題点を整理しないままシステムを入れて、結局定着しなかったことが何度もあった。やっぱり解決すべき問題を特定して、それに合わせた進め方をしないとだめですよね」

現場で何度も失敗してきた人の言葉だと思いました。重みがありました。

でもその横で、田中部長がこう言ったんです。

「解決しなければいけない問題が全部だったら、どうするんですか?」

……正直、一瞬何を言っているのか分かりませんでした。

「問題をすべて解決しないといけないなら、どこから手をつけるんですか」という意味なのか。それとも「そんな複雑なことを整理する余裕はない、早くシステムだけほしい」ということなのか。

たぶん後者だったと思います。今までのシステム導入がなぜ現場に定着しなかったのか、まだ理解できていない様子でした。

「1週間触らせてください。良かったら役員に申請します」

打ち合わせの終わりに、田中部長からこんな提案がありました。

「1週間くらい御社のシステムを触らせてもらって、使いやすかったら役員に申請して導入するから、システムを貸してください。中のデータはテストデータでいいので。予算はとってあるし、役員には今月中に具体的な方針を決めないといけないから、早めにお願いしたい」

僕はこのとき、正直困りました。

「使いやすければ導入する」というのは、問題解決の話ではなく、UIの好みの話ですよね。業務フローを変えずに新しいシステムを入れても、ファイルが整理されないのも、ベテランがマニュアルを確認しないのも、後工程で問題が発覚するのも、何も変わらないはずです。

毎年数千万円から数億円の手戻りコストを生んでいる根本原因は、システムではなく、業務の運用にある。そこを整理せずにシステムだけ変えても、同じことが繰り返されるだけです。

それに、僕たちのリソースを使って「試しに触ってみる」だけで終わる可能性が高い。そのまま「うちには合わなかった」となっても、何も解決しない。田中部長の役員への報告には使えるかもしれないけど、現場の問題は何も変わらない。

丁寧にお断りしました。

この人は「魔法」を求めていた

打ち合わせが終わったあと、少し時間をかけて整理してみました。

田中部長が求めていたのは、問題の解決ではなく「魔法」だったんだと思います。新しいシステムを入れれば、理屈はどうあれ、現場が変わる。みんなが使ってくれる。問題がなくなる。そういうイメージを持っていた。

理屈が分からなければ分からないほど、神秘的で素晴らしい魔法に見える。だから「業務フローを整理しましょう」という話はピンと来ない。むしろ「面倒なことを言ってくる」と感じたかもしれません。

田中部長を責める気持ちはないんです。本当に。

技術統括部長という役職で、毎日役員から叱責されながら、5カ年計画の3年目でまだ方針が出せていない。そのプレッシャーは相当なものだったと思います。「今月中に何か方針を出さないといけない」という焦りも、理解できます。

ただ、そのプレッシャーの中で「問題を分析して根本から解決する」という方向ではなく、「新しいシステムを入れれば何とかなるかもしれない」という方向に逃げてしまった。それが3年間、何も変わらなかった理由なんだと思います。

僕が本当に怖いと思ったこと

上場企業の技術統括部長。おそらく年収は1,000万円を超えているはずです。

その方が、問題の分析ができない。問題解決のための仮説を立てられない。「何が問題なのか」を言語化できない。

最初はそれに衝撃を受けました。「この規模の会社の統括部長が、なぜ?」と。

でも少し考えると、別に不思議なことではないんですよね。

大企業では、優秀さよりも年功序列や社内政治が評価される場面が多い。「問題を解決する能力」より「上の人に気に入られる能力」「波風を立てない能力」の方が評価されることもある。そういう環境で20年、30年と積み上げてきた人が統括部長になることは、ある意味必然かもしれません。

田中部長だって、若いころは現場で必死に働いていたはずです。ただ、その後のキャリアの中で「問題を本質から解決する」よりも「なんとかやり過ごす」「外部に解決策を求める」という習慣が身についてしまった。そしてその習慣が通用してきた環境があった。

これはもう個人の問題じゃなくて、その人をそうさせてきた組織や評価の構造の問題だと思うんです。

でも僕が本当に怖いと感じたのは、その田中部長の下で働いている現場の技術者たちのことです。

毎年数千万円から数億円の手戻りコストが発生している。現場の人たちは短納期に間に合わせようと残業しながら真面目に働いている。でも問題の根本は解決されないから、同じミスが繰り返される。そのコストが積み重なっても、給料には反映されない。

頑張っている人の努力が、構造的な問題によって無駄になっている。

これが、あの打ち合わせで僕が感じた一番重いことでした。

努力が報われるかどうかは、構造で決まる

あの打ち合わせからしばらく経って、自分の仕事についても同じことを考えるようになりました。

どんなに真面目に働いても、どんなに効率化を工夫しても、それが正しく評価される仕組みがない環境では、努力はそのまま報酬に変わらない。むしろ「余裕がある人」として扱われて、さらに仕事が積まれていく。

田中部長の会社の現場と、自分のいる場所が、どこか重なって見えました。

努力が足りないのではない。努力の置き場所が、成果を返してくれない構造になっているだけかもしれない。

そのことに気づいたのが、あの打ち合わせだったんだと思います。