彼女の誕生日に安いワインを買う理由を聞いて、笑えなくなった話

未分類

▶︎仕事の効率化を考えた結果、仕事をやめた人
▶︎効率化・仕組み化・本質が好き
▶︎会社では大きな成果も昇給もない
▶︎副業もうまくいかず15年右往左往する
▶︎その経験から僕と同じような素質・考えを持っている人に
▶︎自分の特性を活かして生きる方法を伝えたい!!

☞15年右往左往したあまみのプロフィールはこちら

「仕事ができるようになれば、楽になる」と思っていた時期があった。

入社したばかりの頃、仕事量を少なくしてもらっているのは「まだ新人だから」だと理解していた。覚えれば増える。でも、慣れれば余裕も出てくる。そういうものだと、なんとなく信じていた。

その前提が崩れたのは、佐藤先輩のある一言がきっかけだった。

私を一人前にしてくれた人

佐藤先輩は、私の入社直後からつきっきりで指導してくれた担当の先輩だ。27歳。社内での挨拶の仕方、ビジネスマナー、商品知識、電話の取り方。社会人として最低限必要なことを、全部この人から教わった。

私の成長は、正直言って遅かった。同じことを何度も間違えた。取引先に失礼なことをしてしまったこともある。そのたびに佐藤先輩は課長から叱られていた。「お前の指導が悪い」と。

理不尽だと思った。私のミスなのに、先輩が怒られる。でも先輩は、私の前では一度もそれを出さなかった。次の日も同じように、丁寧に、根気強く、また一から教えてくれた。

今でも感謝している。先輩がいなければ、社会人として最低限の形になるまでに、もっと時間がかかっていたと思う。

「早く酔わせて、早く寝かせる」

ある日、雑談の流れで先輩が話してくれた。同棲している彼女の誕生日の話だった。

「誕生日は安いワインを買って帰るんだよね」と先輩は言った。

最初は普通の話かと思った。でも続きが違った。

「お祝いのためじゃなくて、早く酔わせて早く寝かせるため。そのあと持ち帰った残業をしないといけないから」

私はその瞬間、何も言えなかった。

先輩は笑いながら話していた。自分でも笑えない話だとわかっているような、乾いた笑い方だった。私も愛想笑いをしようとしたけれど、顔が固まった。

誕生日の夜に、彼女を「片付ける」

頭の中で、その夜の光景を想像してしまった。

彼女は誕生日だから、きっと先輩と過ごせるのを楽しみにしていた。先輩もそれをわかっている。でも持ち帰らなければいけない仕事がある。だから安いワインを用意する。早く酔ってもらって、早く眠ってもらう。その後、静かになった部屋でパソコンを開く。

誕生日の夜に、パートナーを「早く寝かせる」ことで作り出した時間で、仕事をする。

これが、仕事ができる人の現実なのか、と思った。

先輩は仕事ができる。後輩の面倒を見ながら、自分の業務もこなして、持ち帰りまでする。誰よりも責任感がある。それが、誕生日の夜に彼女を早く眠らせる理由になっている。

「仕事ができれば楽になる」は本当か

私はあの時、入社して間もなかった。まだ仕事量は少ない。覚えることが多くて大変だけれど、仕事の量そのものは絞ってもらっている状態だった。

「仕事ができるようになれば、もっとうまく回せるはずだ」と思っていた。慣れれば要領が上がる。効率的にできるようになれば、時間も生まれる。そう信じていた。

でも先輩の話を聞いて、その前提が揺らいだ。

先輩は私よりずっと仕事ができる。経験もある。要領も知っている。それでも、誕生日の夜に持ち帰り残業をしている。彼女を早く眠らせることで、その時間を作り出している。

仕事ができるようになると、仕事量が増える。それだけのことだった。

問題は先輩の働き方じゃない

誤解してほしくないのは、私は佐藤先輩のことが今も好きだということだ。あの丁寧さ、根気強さ、理不尽に怒られても後輩に向ける穏やかさ。そういう人間性は本物だと思っている。

問題は先輩にあるんじゃない。

先輩が誠実で、責任感があって、仕事ができるから、仕事が集まる。集まった仕事は、業務時間では収まらなくなる。収まらない分は持ち帰る。持ち帰った分は、プライベートの時間を削って埋める。彼女の誕生日の夜でさえ、例外にはならない。

そういう構造の中に、先輩は置かれていた。

先輩がもっとうまくやれば解決する話じゃない。もっとさっさと仕事を終わらせれば解決する話でもない。仕事ができる人に仕事が集まり、その人のプライベートが削られていく。そのサイクルを、先輩一人が変えることはできない。

数年後の自分が見えた気がした

私はあの話を聞きながら、数年後の自分を想像した。

仕事を覚えて、要領が上がって、一人前と呼ばれるようになった自分。そして、誰かの誕生日に安いワインを買いながら「早く寝てもらわないと」と考えている自分。

それが「仕事ができるようになった先」にある未来なのか、と思った。

なりたくなかった。先輩みたいな人間になりたくない、という意味じゃない。先輩みたいな状況に、なりたくなかった。誠実に働いた結果として、大切な人との時間を「作業のための準備時間」に変えていく、あの構造の中に入りたくなかった。

「仕事を頑張ること」と「その努力が自分の生活に返ってくること」は、同じじゃない。先輩がそれを教えてくれたわけじゃないけれど、あの一言で、私はそのことを初めてはっきりと意識した。

あなたが今、「仕事ができるようになれば状況が変わる」と信じているなら、一度だけ立ち止まって考えてほしい。その会社の構造は、仕事ができる人のリターンを、ちゃんとその人に返す設計になっているか、と。

部長は自部署の利益確保のために
『お金を使わない趣味を持つのが人生を楽しむコツ』と、40歳の課長は笑いながら言った
冬の旅館の廊下で、凍えながらエクセル入力をした夜
評価面談の一言で、会社への不安が『私の不安』に変わった日
10年つきあったお客様に、それでも安くしないと取られてしまうのか