株主が実際に行使する5つの権限——会社の何を、どう決めているのか

環境の構造理解

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株主が持つ5つの権限を表すアイキャッチ画像

僕がコンサルティングで関わっていた、ある中小企業でのことだ。

部長が本気で怒っていた。「社長が会社を私物化して、好き勝手なことをやっている。取り組みの変更が多すぎる」と。

話を聞くと、その企業は社長が株式の7割を保有し、役員が3割を保有していた。部長は株式を一切保有していなかった。

僕は、その部長の怒りが理解できないわけではなかった。前の週に決まったはずの方針が、次の週にはまた変わっている。現場からすれば、たまったものではない。

ただ、社長が税務で不正を行っているのであれば、それは別問題として重く扱うべきだ。そうでない限り、取り組みの変更が多いこと自体は、多くの場合、会社の利益確保と事業継続のための経営判断であり、従業員のためでもある。

部長が、会社・社長・自分それぞれの立場や行動原理を知らないまま、誤った認識と誤った不満を持ち続けることは、部長自身にとっても良い結果に結びつかない。的外れなところで反発すれば、結果的に会社にとっても自分にとっても損失になってしまう。

以前、上司や組織への違和感の正体—株主から現場まで7つの立場の論理を解くという記事で、株主から現場までの7つの立場の力学を整理したことがある。今回は、その中でも一番上流にいる「株主」が、実際に何をする存在なのかを、もう一段掘り下げてみたい。

株主が制度上どんな権限を持ち、それがどう会社を動かしているのか。具体的な5つの行動として、一つずつ見ていく。

この記事の3つのポイント
  • 株主は「経営方針・事業方針を決める」「人件費削減(リストラ)を決める」「社長・役員を交代させる」「株を売却して資金を引き上げる」「会社を売却する」という5つの具体的な権限を、会社法上の議決権比率に基づいて行使している
  • この権限は、上場企業では分散した株主の合意形成やアクティビストへの説明責任を伴うが、中小企業ではオーナー社長が大株主を兼ねることで、ほぼ独断で行使できるという違いがある
  • 会社という法人が存続していても、株主の意思決定によって従業員個人の雇用条件は大きく変わりうるため、この構造を正しく理解しておくことが、会社との向き合い方を考える出発点になる

「社長が決めている」という理解は、どこまで正しいのか

結論から言うと、この理解は間違ってはいない。ただし、それだけでは説明できないことがある。

日常的には、会社の意思決定は「社長の判断」「経営陣の方針」として語られることが多い。実務上、日々の経営執行を担っているのは社長であり役員だから、これは自然な見方だ。

ただ、僕はこう考えるようにしている。では、なぜその社長が急に方針を変えることがあるのか。なぜ社長自身が交代させられることがあるのか。この問いには、社長個人の資質や気まぐれという説明では答えられない。

社長もまた、誰かから選ばれ、評価され、時には交代させられる立場にある。

「口頭で説明された方針が、数か月後にはまったく違う方針に変わっていた」という違和感も、社長個人の一貫性のなさというより、この先で明らかになる構造の入り口として捉えたほうがいい。

株主総会という、社長の上にある意思決定の場

議決権比率ごとにできることを示す図解(50%超・3分の2以上・100%)

結論から言うと、社長を選ぶのも交代させるのも、法律上は株主総会の権限だ。

会社法には、株主総会の決議として普通決議特別決議という2種類がある。

普通決議は、出席した株主の議決権の過半数で成立する。取締役の選任・解任、配当の決定、決算の承認などがここに含まれる。

特別決議は、出席した株主の議決権の3分の2以上で成立する。定款の変更、合併、事業譲渡、会社の解散などがここに含まれる。

つまり、社長を選ぶのも交代させるのも、法律上は株主総会の決議事項だ。

株式保有比率が50%を超えれば、普通決議を単独で通せる。取締役を自分の意向で選べるということだ。3分の2以上を持てば、特別決議も単独で通せる。定款変更もM&Aも会社の解散も、自由に決められる。100%であれば、完全な支配になる。

保有比率が低くても、権限がゼロになるわけではない。3%以上の株式を持てば、会計帳簿の閲覧を請求できる。1%以上でも、株主総会での議題を提案する権利は残る。

ただ、経営方針そのものを左右できるかどうかは、結局のところ議決権比率次第だ。社長は、この議決権構造の上に立っている存在にすぎない。

この記事の見取り図——株主が実際に行使する5つの権限

株主が実際に行使する5つの権限を一覧で示す図解

ここから、株主が実際に行使する行動を5つに分けて見ていきたい。

  • 経営方針・事業方針を決める
  • 人件費削減を決める(リストラ)
  • 社長・役員を交代させる
  • 株を売却して資金を引き上げる
  • 会社を売却する

この5つを、実際に何が起きているかという実例とともに、一つずつ確認していく。

経営方針・事業方針を決める

端的に言うと、経営方針は社長個人の裁量ではなく、株主が選んだ取締役会を通じて決まる。

株主は、取締役の選任・解任権を通じて、会社の経営方針を実質的に方向づけている。

社長も取締役も、株主総会で選ばれる立場だ。大株主が望む方向性から大きく外れた経営を続けることは難しい。

これが実際にどう現れるか。資本効率を重視する株主の意向を受けて、企業は不採算事業を切り離し、成長領域に資源を集中させるという事業方針の転換を行う。

富士フイルムは、祖業である写真フィルム事業が売上高の1%未満まで縮小し、医療・半導体材料の企業へと変貌した。キリンホールディングスは、バーボン事業を切り離して売却し、酒類事業に集中した。

どちらも、株主が重視する資本効率が、経営方針そのものを変えた実例だ。

人件費削減を決める——リストラという権限の行使

結論から言うと、黒字企業のリストラは、業績悪化ではなく株主の資本効率要求が理由になっていることが多い。

2025年度、上場企業の早期・希望退職募集は20,781人に達した。東京商工リサーチの調べで、2009年度以降4番目の高水準だ。そのうち約7割が、黒字企業だった。

「業績が悪化したからリストラする」という理解だけでは、この黒字リストラの多さを説明できない。

東京証券取引所によるPBR改善要請や、アクティビストと呼ばれる物言う株主の株主提案が、資本効率を重視する経営判断を後押ししている。黒字であっても、人件費という「株主から見た費用」を削減する意思決定が行われているということだ。

日立が、シニア層2,300人を対象に「同一職務なら賃金を下げない」新制度を導入したという話がある。裏を返せば、従来は定年後に給与が約28%減るのが当たり前だったということだ。人件費もまた、株主の資本効率要求に応じて調整される対象になっている。

前の章で見た「経営方針を決める」権限と、この「人件費を削減する」権限は、根っこでつながっている。事業の入れ替えと人件費の圧縮は、どちらも資本効率を上げるための、同じ意思決定の別の側面にすぎない。

社長・役員を交代させる

結論から言うと、社長も役員も、株主の意思ひとつで交代させられる立場にある。

取締役の解任は、原則として株主総会の普通決議、つまり出席株主の議決権の過半数で決定できる。会社法339条にそう定められている。

任期の途中であっても、正当な理由の有無にかかわらず、解任は可能だ。

社長も役員も、株主から経営を「委任」されている立場にすぎない。その委任は、株主の意思で解除できる。

社長という立場も、決して絶対的なものではない。常に、株主の評価にさらされ続けている。

株を売却して資金を引き上げる

結論から言うと、株主は株を売るだけで会社に影響を与えられる。会社に居続ける義務はない。

株主は、自分が保有する株式を、いつでも売却する権利を持つ。上場企業なら市場で、非上場企業なら譲渡制限などの手続きを経て、投資した資金を回収できる。

この売却行動自体は、会社の意思決定ではない。ただ、大株主がまとまった株式を売却すれば、株価に影響を与える。結果として、経営陣は株価対策や資本政策の見直しを迫られることになる。

株主は、会社に居続ける義務を負っていない。この非対称性は、覚えておいていい。

会社を売却する

結論から言うと、会社そのものも、株主の判断で売買の対象になる。

株主は、保有する株式の譲渡、あるいは会社そのものの合併・事業譲渡という形で、会社を第三者に売却できる。合併や事業譲渡は特別決議の対象だ。

これは、事業そのものを丸ごと入れ替える、もっとも大きな権限の行使になる。従業員からすれば、所属する会社や事業部門が、ある日突然、別の会社の一部になるということだ。

デンソーと東芝は、ロームとのパワー半導体事業統合を進めている。ソニーは、米ピーナッツ事業を買収し、知的財産戦略を強化した。どちらも、株主の資本戦略の一環として、会社や事業が売買される実例だ。

事業の統合や譲渡が発表されたとき、そこで働く人にとっては、所属先や評価制度、時には勤務地までが変わることになる。だが、それは会社側の一存というより、株主の意向を反映した資本戦略の結果であることのほうが多い。

株主が一人に集中するとどうなるか——中小企業のオーナー社長というパターン

上場企業の分散株主と中小企業のオーナー社長の意思決定スピードを対比する図解

結論から言うと、株式が一人に集中するほど、経営方針の決定は速く、自由になる。

従業員50人以下クラスの中小企業では、社長自身が大株主を兼ねていることが多い。実質的に、社長一人が株主総会そのものだ。

株式保有比率が3分の2以上あれば、定款変更もM&Aも会社の解散も、単独で決定できる。

上場企業では、分散した株主やアクティビストへの説明責任が伴うため、経営陣が独断で方針を変えることは難しい。一方、オーナー社長が株式の大半を持つ中小企業では、複数部門の調整や稟議のフローを経ずに、会議なしに近いスピードで経営方針を変更・決定できる。

「経営方針を頻繁に変える」という現象自体は、株主としての権限を迅速に行使しているだけであり、それ自体は会社法上、正当な行為だ。

冒頭で触れた、社長が株式の7割を持つ企業のケースも、まさにこの構造の典型だった。

会社は潰れなくても、従業員単位では大きく変わる

結論から言うと、会社が潰れないことと、自分の雇用条件が守られることは、同じではない。

近年、会社統合・分割・売却のニュースは頻繁にある。赤字でも黒字でも、数年先を見据えたリストラのニュースが相次いでいる。

大企業という法人自体は、簡単には潰れない。ただ、役職定年、配置転換、グループ外への出向、早期退職優遇制度の実施といった形で、従業員単位では大きな変化が起きている。

会社という箱は存続していても、その中にいる一人ひとりの立場は、箱の存続とは別に動いている。役職を外れる、慣れた部署から離れる、出向先で一から関係を作り直す。どれも、会社が潰れたわけではないのに起きる変化だ。

これらはすべて、ここまで見てきた5つの株主の権限、特に経営方針の決定と人件費の削減が、実際の人事施策として現れたものだ。

「終身雇用でこの会社にいれば安心」という前提は、会社という法人の存続と、自分の雇用条件が守られることを同一視した誤解になる。株主の構造を踏まえると、この2つは別の話だ。

まとめ——株主の構造を知ることは、会社との向き合い方を整理すること

結論から言うと、会社の意思決定の起点は、社長ではなく株主にある。

ここまで、経営方針の決定、人件費の削減、社長・役員の交代、株式の売却、会社の売却という5つの権限を見てきた。上場企業と中小企業で、その現れ方が違うことも確認した。

会社は株主のものであり、社長・従業員みんなのものではない。株主は、自分が損をしないことを最優先に行動する。これらは、感情的な批判の対象というより、会社という仕組みの出発点として受け止めたほうがいい。

この構造を知っていれば、経営方針の変更やリストラのニュースに接したとき、それを「誰かの気まぐれ」や「自分への攻撃」として受け止めるのではなく、「この会社は今、株主から見てどういう状況に置かれているのか」という視点で捉え直せるようになる。

自分の人生を会社に委ねきるのではなく、自分がどのような構造の中で働いているのかを正しく理解しておくこと自体が、次に自分がどう考えるかの土台になる。

株主から現場までの7つの立場の連鎖については、上司や組織への違和感の正体—株主から現場まで7つの立場の論理を解くで改めて整理している。