
僕はこれまで、中小企業から中堅企業まで、業務改善のコンサルティングでいくつもの現場を見てきた。
その中で何度も感じたのが、社内の会議資料や組織図に「COO」「CIO」「CFO」といった肩書きが並んでいても、現場のメンバーやリーダーの多くが、それぞれの役職が実際に何を担当し、何を基準に判断しているのかを説明できない、という光景だった。
「役員は偉い人だから、細かいことは分からなくても仕事は回る」。僕自身も、昔はそう思っていた。
でも、あるプロジェクトが急にCIOの号令で動き出したり、時間をかけて作った提案書がCFOの段階で差し戻されたりする場面に何度も立ち会ううちに、「役員」という言葉をひとまとめにして理解している限り、こうした指示や資料の背後にある意図をまったく読み解けないことに気づいた。
役員という肩書きは、CEO(最高経営責任者)を筆頭に、COO(最高執行責任者)・CIO(最高情報責任者)・CFO(最高財務責任者)という、それぞれ異なる職責を持つ役職の集まりだ。
株主から現場まで、組織を動かす7つの立場を解剖した上司や組織への違和感の正体—株主から現場まで7つの立場の論理を解くの中でも、役員は「役員報酬と地位を守るため、社長への提案を通し続けなければならない」立場として位置づけた。この記事では、その役員という肩書きの中身そのものを、COO・CIO・CFOという3つの職責に分けて、もう一段掘り下げていきたい。
- 「役員」はひとまとめの肩書きではなく、COO(実行を担う責任者)・CIO(情報とシステムを担う責任者)・CFO(財務とリスクを担う責任者)という、明確に異なる職責を持つ役職の集合である
- 現場から見て役員の指示が唐突・意図不明に見えるのは、個人の資質の問題ではなく、それぞれの役職が担当する専門領域と、経営陣特有の「全社を俯瞰する視点」から論理的に導かれた結果である
- COO・CIO・CFOそれぞれの職責を理解すると、この指示はどの役職の、どの職責から出ているのかを読み解けるようになり、資料や提案の通し方を判断する軸を持てるようになる
「役員」と一言でくくることの限界
「役員」をひとまとめの肩書きとして理解している限り、複数の役員が同時に動くと、現場は指示の全体像を見失う。
現場の実務においては、役員のうち誰が何を決めているのかを厳密に区別しなくても、日々の仕事自体は回ってしまうことが多い。「役員会で決まったことだから」という説明だけで、現場が納得してしまう場面も少なくない。
これ自体は間違いではない。
でも、複数の役員が同時に別々の指示を出しているように見える場面に直面すると、話は変わってくる。あるプロジェクトはCIOの号令で急に動き出し、別の提案はCFOの段階で差し戻される。そういう状況に重なって出くわすと、「役員」というひとまとめの理解では、いま何が起きているのかをまったく説明できなくなる。
僕自身、そういう現場に立ち会うたびに、「結局、誰の言うことを優先すればいいのか」と混乱する現場のリーダーを何人も見てきた。
なぜ「経営陣ひとまとめ」の理解では、指示の意図が読み解けないのか
役員の指示が読めなくなるのは、役員個人の資質の問題ではなく、そもそも見ている範囲そのものが現場と違うからだ。
役職が上がるほど、従業員の日常の苦労や現場の実感から離れてしまう現象がある。海外の組織論では、これをDisconnect Dilemma(断絶のジレンマ)として整理している。
僕がこの整理を知って腑に落ちたのは、これが単に「役員が現場に無関心だから」起きているわけではないという点だった。
マネージャーの思考が担当事業の目標達成に向けられるのに対し、役員の戦略的思考は全社の事業ポートフォリオ全体を俯瞰し、経営資源の再配分を判断する視点を持つ、という整理がある。これは「森を見る」役員と「木を見る」現場という、視点の高さそのものの違いとして説明されている。
役員の指示が現場から見て唐突・意図不明に見えるのは、役員個人が現場に無関心だからではない。そもそも見ている範囲(森)と、現場が見ている範囲(木)が違うために生まれる、構造的なズレなのだ。
この視点の高さの違いを知らないまま「役員=ひとまとめ」で理解しようとすると、指示の背後にある論理を読み解けないまま、表面的な指示だけを受け取ることになる。
この記事の見取り図——COO・CIO・CFOという3つの役割を一つずつ見ていく

役員という肩書きの中には、実行・情報とシステム・財務とリスクという、性質の異なる3つの仕事が入っている。
経営陣の中でも、CEOを除く役員の代表的な職責として、COO(実行を担う)・CIO(情報とシステムを担う)・CFO(財務とリスクを担う)という3つがある。
そこで、ここから先はこの3つを一つずつ、具体的に何を職責としているのかとともに見ていきたい。
COOの役割——CEOの描く未来を、現在の実行に翻訳する仕事
COOからの指示が具体的な数値目標や業務プロセスの変更という形で降りてくるのは、CEOの戦略を現場の実行に翻訳する責任を負っているからだ。
COO(最高執行責任者)は、CEOが描く未来・外部のビジョンを、現在・内部の具体的なアクションプランに落とし込み、現場の実行力を最大化する責任を負う。組織図上ではCEOの直下に配置されることが多く、他部門の責任者と協力しながら、業務オペレーションの品質管理や生産性向上を担っている。
COOからの指示が、抽象的な方針ではなく「具体的な数値目標」や「業務プロセスの変更」という形で降りてくるのは、COOの職責がCEOの戦略を現場のオペレーションに翻訳し、その実行を管理することにあるからだ。
僕自身の実務観察としても、システム化が進んだ組織では、COOが「自分が出社しなくても現場が回っている状態」を維持できているかどうかを、自身の職務が機能しているかどうかの一つの指標にしている、という傾向を見てきた。COOからの指示は思いつきではなく、実行管理という役割から論理的に出てきているものだった。
CIOの役割——ITとシステムで、事業を止めないようにする仕事
役員の号令で急にシステム導入の話が始まるのは、CIOが既存業務を止めないためのIT投資判断という職責を負っているからだ。
CIO(最高情報責任者)は、企業の情報システムやITインフラ全般を統括し、基幹システムの安定運用、IT投資の最適化、セキュリティやガバナンスの確保など、既存業務を止めないためのIT管理を行う。近年は、CDO(最高デジタル責任者)と役割が重複・分化する動きも進んでいる。
現場から見て「なぜ急にシステム導入の話が降りてきたのか」が唐突に見えるのは、CIOが担当する「既存業務を止めないためのIT投資判断」という職責が、現場の日常業務からは見えにくい範囲、たとえばセキュリティリスクや基幹システムの老朽化などを対象にしているためだ。
システム導入が進まない会社に共通していた問題で描いたように、役員の指示で情報共有システム導入のワーキンググループが立ち上がったものの、現場への浸透が進まなかったケースがある。こうした「役員の号令で始まるシステム導入」の多くは、CIOが担う既存業務の維持・IT投資最適化という職責から発生している。
なぜ急にシステムの話が降ってきたのか。その理由が分かるだけで、受け止め方はずいぶん変わってくる。
CFOの役割——数字とリスクの面から、経営の判断を検証する仕事
予算申請だけが差し戻されるのは、嫌がらせではなく、CFOが財務的リスクを検証する職責を負っているからだ。
CFO(最高財務責任者)は、財務戦略の立案・実行、予算管理、財務報告、リスク管理を担い、株主や投資家とのコミュニケーションも担当する。単なる経理部門のトップではなく、CEOの経営戦略を財務面から検証する「守りのパートナー」だ。CEOが「新規市場へ大規模な投資を行う」というビジョンを示した場合、必要な資金、その調達方法、投資が失敗した場合のリスクを具体的に検証するのがCFOの役割になる。
現場から見て「なぜあの予算申請だけが差し戻されるのか」という疑問は、CFOが個人的な嫌がらせや保守性から差し戻しているわけではなく、財務的リスクを検証するという職責を負っているために生まれる。
200万円で済む話が700万円になった理由で書いたように、本来200万円で済むはずだったシンプルな設備更新の予算申請が、承認プロセスの中で700万円まで膨らんでしまったケースがある。こうした予算の膨張を防ぐために財務面からの検証を行うことこそが、CFOという職責の核にある。
予算が通らない理由は、個人的な事情ではなく、財務検証という役割から来ていた。そう理解できると、提出のしかたそのものを見直せるようになる。
COO・CIO・CFOに共通する視点——「木を見る現場」と「森を見る役員」

COO・CIO・CFOに共通しているのは、専門領域が違っても、全社を俯瞰する同じ高さの視点で判断している、という点だ。
ここまでCOO・CIO・CFOという3つの職責を見てきた。
マネージャーの思考が担当事業の目標達成、つまり木に向けられるのに対し、役員の戦略的思考は全社の事業ポートフォリオ全体、つまり森を俯瞰し、経営資源の再配分を判断する視点を持つ。
COO・CIO・CFOはそれぞれ実行・情報システム・財務という異なる専門領域を担当しているが、共通しているのは、特定の現場の個別事情ではなく、全社という単位で物事を判断している点だ。この森を見る視点があるからこそ、現場の個別事情、つまり木だけを見ていては気づけない問題、たとえばシステムの老朽化や財務的なリスクを、先回りして扱うことができる。
バラバラに見えていた3つの役職が、実は同じ高さの視点で動いていたのだと分かると、日々の指示の見え方も変わってくる。
役員は、専門性の異なる一つの経営チームである

役員は一枚岩の意思ではなく、専門性の異なる人たちが集まった一つの経営チームだ。
経営チームは、CFOやCOOを含む各機能が円滑に連携し、全社戦略が現場レベルまで浸透・実行されるように機能している。
一方で、役員には役員報酬や自身の地位を守るため、社長への提案を通し続けなければならないという心理的な事情も併せてある。COO・CIO・CFOはそれぞれ独立した専門家であると同時に、CEOを中心とした一つの経営チームとして機能している。個々の役員の指示が時に矛盾して見えるのは、専門領域の異なる複数人が、それぞれの立場から同じ経営チームとして現場に関わっているためでもある。
なぜ役員が地位に固執し、社長への提案を通し続けようとするのか。その心理面の事情は、役員報酬や解任のリスクといった、また別の構造に由来するものであり、ここでは深く立ち入らない。
1000万円の部長が問題を解決できなかった話で書いたように、役員から「なんとかしろ」と繰り返し求められ続ける部長がいた。この状態は、経営チームからの要求が現場の管理職を通じて伝わっていく構造の一例だと、僕は捉えている。
役員は一枚岩ではなく、専門性の異なるチームとして動いていた。そう分かるだけで、見え方が整理された。
まとめ——肩書きの違いが分かると、指示の意図が見えてくる
ここまで、COO(実行)・CIO(情報とシステム)・CFO(財務とリスク)という3つの職責と、それらに共通する森を見る視点を見てきた。
役員という肩書きを「偉い人のひとまとめ」として理解している限り、日々の指示や資料の背後にある意図は読み解けない。
COO・CIO・CFOという職責の違いと、それぞれが全社を俯瞰する視点から判断しているという構造を理解すると、この指示はどの職責から、どのような視点で出ているのかを、落ち着いて見極められるようになる。この記事で見てきた3つの職責は、次のように切り分けられる。
- 実行計画や数値目標という形で降りてくる指示は、COOの「戦略を実行に翻訳する」職責から出ている
- システム導入やセキュリティ対応という形で降りてくる指示は、CIOの「既存業務を止めない」職責から出ている
- 予算の差し戻しや投資判断という形で降りてくる指示は、CFOの「財務リスクを検証する」職責から出ている
以前の僕なら、CIOの号令で急に始まったプロジェクトにも、CFOの段階で差し戻された提案書にも、ただ戸惑うだけだった。今は、COO・CIO・CFOという3つの職責と、森を見る役員・木を見る現場という視点の違いを知っているから、同じ場面に立ち会っても、受け止め方がまったく違う。
分からなさへの不安が、少しずつ、落ち着いた構造理解に変わっていく。僕自身、そういう変化を何度も経験してきた。
